HOME | Geo Story _ tokiwa

Geo Story _ tokiwa  

Geo Story  

常磐植物化学研究所 代表取締役
薬学博士 立崎 仁 氏に聞く
「 地球は植物の惑星 」

" The Earth is a Planet of Plants "
Tokiwa Phytochemical Co., Ltd.

President / Dr, Pharmaceutical Sciences
Jin Tatsuzaki
 
 
 
 
 

植物に生かされている
~植物の役割~

普段何気なく生活する上で、「植物」との関わりは何かと問われると、道に植えられている花や街路樹、庭のガーデニングなどと回答する人が多いだろう。だが実は、植物はもっと身近で、人間が生きていく上で必要不可欠な存在であるのだ。今回は、人間と植物との深い関係について話をしていく。 私たち人間の体の大半が水であることは広く知られている。一般的に 60%以上が水で、タンパク質が 20%、脂肪が 15%、ミネラルや糖質が 5%未満と考えられている。構成元素で見ると、約 60%以上が酸素で、炭素が 20%、水素が 10%、窒素が 3%、カルシウムが1.5%、リン、硫黄、塩素、その他ミネラルで 2%未満となる。となると、酸素、炭素、水素、窒素をどのように得ているのかは、生命・身体維持に極めて重要である。当然と思われてしまうかもしれないが、それこそが「食べること」と「呼吸すること」である。

 

理科の授業で、空気の約 80%が窒素で、約 20%が酸素、残りは二酸化炭素、アルゴンなどと習っており、容易に推察できるように、生命維持に必要な多くの酸素は呼吸から得ている。そして、その他全ては食べることからである。突然だが、私たちは、酸素や炭 素、水素、窒素をどうやって食べているのか考えたことがあるだろうか。そして、それらを食べられる形へ変化させてくれているのが植物であることを、どれだけの人が知っているだろうか。
SDGs 達成に向け、温室効果ガスの削減やカーボンニュートラルなどの言葉を聞くようになった。本来長い年月を経て地下に保存されていく化石燃料が、産業革命以降にその消費量が増え続けることでカーボンニュートラルが保てなくなり、温室効果ガスの増加などの環境問題につながっている。こういった背景から、以前よりも炭素や窒素のサーキュレーション(循環)を考える機会が多くなった。下図に示すように、大気中の炭素(二酸化炭素)、そして補助的に窒素を固定化する非常に重要な仕事をしてくれているのが実は植物で、サーキュレーション全ての根源とも言える。つまり、古来自然界の生命活動の中立が保たれてきたのも植物のお陰と言っても過言でない。私たちは、つい、タンパク質、糖質、脂質、食物繊維、ビタミン、アミノ酸、ミネラルなどに目を奪われるが、植物がいなければ、生命の多くは生存しておらず、存続すらできない。植物に畏敬の念を抱き、「植物に生かされている」という意識を大切にすることが SDGs の最初の一歩ではなかろうか。

植物の優位性
 

三大栄養素であるタンパク質、糖質、脂質を組成している炭素、酸素、水素、窒素を私たちが食べることができるのは、植物のお陰であり、植物に生かされていることに触れた。今回は、生命維持に必要な植物としての偉大さを考えてみたい。私たちが食事をする目的は、美味しいものを食べて幸せな気持ちになったり、健康に良いとされるものを食べて身体づくりをしたりと様々であるが、一番の目的はタンパク質、糖質、脂質といった三大栄養素を体内に取り込むことにあり、自らつくりだすことができない食物繊維、ビタミン、アミノ酸、ミネラル等を補うためでもある。タンパク質や脂質というと、肉や魚をイメージしてしまうが、植物もまたそれらの供給源となることはご存じだろうか。

 
 
 

他にも植物は、DNA や RNA ともよばれる核酸、アミノ酸、ATP など、動植物に普遍的に存在する生命維持に必要な物質をつくりだすことができる。むしろ、植物が起点となり、それを動物等が食することで、生命維持に必要な物質が供給されているとも言え、植物は捕食生物の生命・身体維持に必要な物質をつくる優秀な工場と考えることが出来る。つまり、理論的には肉や魚介類、乳製品などを食べる必要はなく、植物だけで生存は可能であろう。その好例が、肉や魚介類を排除するベジタリアン(菜食主義者)や、より厳格なヴィーガン(完全菜食主義者)である。
食べることは欲求であり、楽しみでもある。肉や魚介類などの美味しさはそれに代わるものはなく、人々の幸福を満たす別の目的から考えれば否定されるべきではない。しか し、時に植物という普遍的な存在によって、私たちの生命が生かされていることを考え、
植物に畏敬の念を払う必要があるのではなかろうか。また、植物に視点を当てた SDGs に向けたライフスタイルを考えてみることも面白く、それを実践する新たな提案が出来ればと考えている。

 

植物からの恩恵、その多様性 

私たちが食べるものは全て、植物が起点となりつくりだされていること。そして、生命維持に必要な物質つくりだすのに、植物は最も優秀な工場であり、理論的には植物だけで生命・身体維持していくことは可能であることを述べた。最終回の今回は、植物の最大の魅力である多様性について触れたい。植物が何故、動物と同じような物質つくるのか。それは、生物が生命維持のために、下図(左)に示すような共通の一次代謝経路(※1)を持つからである。植物が炭素や窒素のサーキュレーションの根源の一つであることを考えれば、何ら不思議ではない。

 

しかしながら、植物の最大の魅力は、ここから述べる多様性にある。地球上に植物(維管束植物)が約 27 万種存在していると言われているが、それぞれは少なくとも1つ以上の固有の植物成分(ファイトケミカル)を持っている。それは、植物に存在する独自の二次代謝経路(※2)に従ってつくり出されたもので、時には、他の生物に対して有効(あるいは有害) な作用を示すことがあり、医薬品等のシーズ(種)として利用されている。
具体的には、下図(右)に示すように、血管を弛緩させ、血流を良くするメントール、便通を良くするセンノサイド、肥満やガン予防に抗酸化物質のカテキン、インフルエンザ予防にシンナムアルデヒド、手術に欠かすことができない鎮痛剤のモルヒネなど、例を挙げればきりがない。現在猛威を振るっている新型コロナウィルスに対して有効なファイトケミカルも既に複数見つかっている。人類は常に未知試練を解決する手段として、それらを利用してきた。
このように、植物は生命の根幹を成しており、そこからつくりだされる多種多様なファイトケミカルの有効な価値を見出していくことは、病気や SDGs といった社会課題を解決するための一つの手段となろう。
今回、「植物に生かされている」全3回のコラムの中で、私たちが①大自然における炭素や窒素のサーキュレーションにおいて、②生きていくために必要な生命・身体維持物質を得ることにおいて、③病気や社会課題を克服することにおいて、「植物に生かされている」ことを述べてきた。
あらゆる観点からみても、植物の偉大な力の前に、人知を超えた世界が広がっていることが分かる。私たち一人一人が、植物に対して畏敬の念を持ち、感謝の心を持てることが、今後人類がサステナブルな社会を考えていく上でとても重要な最初の一歩となり、夢と希望の好循環が生み出されていくに違いない。
 
(※1)一次代謝経路:生物を構成するために不可欠な成分の生合成や変換、エネルギー産生など、生命を維持する上で不可欠な代謝の経路。
(※2)二次代謝経路:一次代謝から派生した経路で、生物の生命維持に対し直接的には関与しない成分の生合成等の代謝経路。二次代謝産物は化学構造や生物活性に多様性、特異性がある。

株式会社 常磐植物化学研究所
代表取締役社長 博士(薬科学)
立﨑 仁  

 
PARTNERSHIP