Geo Story
福島の里山を愛する料理人 黒澤俊光さんに聞く
「 山をいただく“MANMAGOSE” 」
"MANMAGOSE," a way to enjoy the mountains
with Toshimitsu Kurosawa, chef
「“まんまごせ”の知恵」
第二次世界大戦の頃、福島県猪苗代町から今の裏磐梯へ僕の祖父母じいちゃん ばあちゃん達は未開発の土地に開拓に入ったそうだ。それはそれはとても大変なんて言葉では言えないくらいの状況だったと後にばあちゃんが話してくれた。
その中で一番苦労したのは“食べ物”まんまである。食事を作る事を会津では“まんまごせ”という (まんま→食事 ごせ→作る)という意味でちょっとイタリア語のようでおしゃれに聞こえるかもしれない。その言葉とは裏腹に当時畑も作っていない状況の中、食材や調味料の調達はとても苦労したと昔を懐かしそうに裏の畑を眺めながらばあちゃんが言った。
「四里四方」との出会い
昭和50年代私がまだ小さかった頃、家には囲炉裏があり、そこは“食事の場”であり“仕事場”であり“教育の場”であった。
ばあちゃん 「いいが、昔がらこごら辺では“四里四方”ってあってな、産まっちゃ土地から四里以内の物を食うと長生きすんだと、、」
私 「なんで??」
ばあちゃん 「いいが、春になっと山の物(山菜)が出っぺ。あれは冬に体に溜まった毒を出してくれんだど、、 んだがら苦げがったり酸っぺがったりすんだわ。」





「山をいただく」
一説によると山菜はデトックス効果があり体内時計を整えてくれる働きがあるようだ。
半年もの長い間雪に覆われる地域に住んでいると春の訪れは先ず雪解け水の流れる音と共に、土や水の香りから遅い春を感じていた。「あ~やっと春が来たな~」って。
先ず ふきのとうが顔を出して、続いてこごみや蕨 ぜんまい 行者にんにく うるい タラの芽 こしあぶら ふき 筍 わさび みず えらと続いてく。
子供の頃の小遣い稼ぎによくふきをやヨモギを採っては近所のばや(おばあちゃん)のところへ持っていく。すると「OO貫目あったなぁ~よくこんだけ採ったごど~」と言って“ほまぢ”(お駄賃)をもらえるのです。他にもらえる飴やお菓子がどれだけ嬉しかった事か今でも鮮明に覚えてます。
時には囲炉裏の傍で採ってきた山菜の処理を手伝ったり、囲炉裏で炊いた豆で味噌を作ったりしていた。そこはばあちゃん達の仕事場であり、その時聞く話はとても楽しみだった。
初めの“山をいただく”の意味も山の神様から食材を分けていただく。山そのものが生きていく為に必要な存在なのである。だからこそ必要な分だけいただく、決して採り過ぎない事が山と共に生きていく大事な事なのだと教わった。
さて、最近国内も近隣諸国もフードロスや乱獲、過剰飼育など問題になっているが、反面飢餓に苦しんでいる人も多い。我々が住むこの星の中で大きくバランスが崩れていっている問題について、そうばあちゃんが言ってくれた「採り過ぎない事」
「みんで分ける事」そして「捨てない事」が非常に大事な事のように思います。
自分は苦労して採ってきたものや長い時間をかけて育ててきたものであれば、同じ気持ちになると思う。
囲炉裏に落ちたご飯粒を拾って洗って食べているばあちゃんの姿。
私 「なんだべ!ばあちゃんきったねぇ~べ!!」というと
ばあちゃん 「米は八十八の手間暇がかかって、オメのお父さんとお母さんが大変なおもいして作ってくれたもん無駄にはでぎねんだ!」と教えてくれた。
時には“いただきます”の意味は命をいただく意味だとも、だから同時に手を合わせてやることも教わった。初物は先ずは仏様その後年長者から順に食べていくとか・・




MANNMAGOSEのレシピ
さて、色々山暮らしの我が家のお話をさせていただきましたが、今回のMANNMAGOSE(まんまごせ)は生前ばあちゃんが好きだったものをチョイスしました。
1.猪苗代のお米 つきあかり
2.こごみとうるい きのこのみそ汁
3.切干し大根と人参の煮物(・戻した切干し大根・千切り人参・お揚げ・昆布出汁醬油・砂糖少々で炊く)
4.山うど油味噌(薄くスライスしたうど・砂糖・うどの20%の味噌 油でうどを炒め火が入ったら砂糖と味噌を入れる)
※油味噌は会津の常備食 季節の野菜など刻んで同じ要領で作る
(ふきのとう、シソとナスなど・・)
暑い日にはご飯や素麺にのっけて冷たい水をかけて食べる。
5.みず(イラクサ科ウワバミソウ属)の松前漬け(切ったミズと刻んだ昆布を煮切り酒3:煮切り味醂1:醬油1で2日ほど漬け込む)
6.うるいのだし(全てみじん切り うるい・人参・茄子・胡瓜・大根・茗荷 昆布食材重量の3% 塩2% 砂糖少々 重石をして1日)
7.ミズブキとお揚げの煮物(皮をむき下茹でしたふき・カットした油揚げ 昆布出汁12:薄口醬油1:味醂1:砂糖少々の割合で30分ほど弱火で炊き上げる)
8.季節の糠漬け(胡瓜・人参・茄子・二十日大根)

地球人として思う
最後に、今回作ったものには動物性のたんぱく質は一切無く“お精進”である。一説によると免疫力が向上し、体内環境を整えてくれるようです。今回砂糖を用いたがその昔砂糖も味醂もかなり高価なもので手に入らなかったと思います。今回は現代風にアレンジしました。
今やリゾート地の福島県裏磐梯も大変な思いで開拓してくれた先人達(祖父母)のささやかな楽しみ“食事作り”に注目してみた。
たかが食事と思われるかもしれませんが、そこには山で生きる為の知識や想いも沢山あると再認識しました。それ全てをまんまごせ“MANNMAGOSE”として多くの皆様にお伝えしたいと思います。
山をいただく 自然をいただく 命をいただく 地球人として思う・・・